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三心通信 2021年12月

今月初旬、臘八接心の頃は少し暖かかったのですが、10日過ぎから数日間、最低気温がマイナス5°C程に下がるようになりました。その後、温度は回復しましたが、雨が降るか、曇り空が多い鬱陶しい日が続きました。南部、中西部に十数個の竜巻がおこり、甚大な被害が出た日、ブルーミングトンでも強風が吹き、大きな枯れ枝が苔庭に落ちましたが、建物はなんともありませんでした。幸い、インディアナ州で被害があったとの報道はありませんでした。今日は冬至ですが、それほど寒くはなく、しばらくぶりによく晴れて、穏やかな天気になりました。庭を覆っていた落葉も掃除をしたのと、強風で飛ばされたのとで、落ち着くところに落ち着きました。雨が多かったおかげで、苔庭の緑がきれいです。

最近、外に出るのは、午後3時から5時過ぎの間にYMCAに行く時だけになりました。往復歩く時間を含めて、1時間ないし1時間半ほど、坐禅の代わりに歩行禅とストレッチをしております。パンデミックが始まってから、ダウンタウンやショッピング・モールに行くこともほとんどありません。日用品や食料を買いにスーパーマーケットにいくのがせいぜいです。それも家内や息子に任せることが多く、私は自動車を運転する機会も少なくなりました。

臘八接心は例年通り11月30日夕方から12月7日の深夜0時まで坐り、翌日8日の朝食と後片付けの掃除で終わりました。法光と何人かが毎日坐り、部分的に坐りに来る人たち、オンラインで参加する人たち合わせて、十余人の参加がありました。私は、毎日午前中、9時から11時まで2炷坐りました。それが現在の体調で無理なくできる限界です。パンデミックが始まって、お寺での活動ができなくなり、人が来ない坐禅堂が可哀想でしたが、ようやく生き返ったように感じました。遠方から来る参禅者たちの宿泊所として借りている、隣接したアパートはまだ使えませんので、参加者は一人を除いて全員ブルーミントン在住の人たちでした。それで、それぞれの家からお寺までの往復時間を考慮して、朝は5時から、夜は8時までと、14炷ではなく、12炷の差定にしました。

接心中、毎日2炷しか坐りませんでしたので、宗務庁翻訳事業の英語訳「正法眼蔵」の脚注の部分に引用されている日本文の校正に時間を取ることができ、全巻を見終わることができました。5月から半年以上、ほとんど毎日、朝の最初の1時間ほどをこの校正の作業に当てていましたので、完了してほっとしました。これから、最終原稿作成の作業をし、2023年には出版される予定とのことです。この翻訳事業は1995年に始まりましたので、四半世紀以上かけて、「日課勤行聖典」、「行持規範」、「伝光録」に続いて「正法眼蔵」が英語に翻訳されることになります。この事業は日本曹洞宗が世界に提供できる最善の事業だと思い、編集委員としても関わりましたので、完了が目の前に迫って、感慨深いものがあります。翻訳に当られたアメリカの学者の方々、それを支えられた多くの人たちのご苦労に感謝します。

日本国外の人々が曹洞禅を修行してゆくには、それらだけでは十分ではありません。私の個人的な仕事として、太源・レイトン師との共訳で「永平広録」「永平清規」、その他の人たちの協力を得て「正法眼蔵随聞記」、「道元禅師和歌集」、「学道用心集」、などの宗典、また内山興正老師の著作の英語訳をして参りました。私がしてきた講義をもとにした著作も数点が出版され、それらのいくつかフランス語、ドイツ語、イタリア語・スペイン語などにも訳されました。出版はされておりませんが、眼蔵会のテキストとして毎年3巻ほど、「正法眼蔵」の翻訳も続けてきました。

1972年に駒澤大学を卒業して安泰寺に安居させていただく際に、内山老師から、「これからは世界に向けて坐禅の修行と正しい坐禅の意味を伝えていかなければならないのだから、英語の勉強をしないか」と言われました。性格的にノーといえなくて、別に英語に興味があったわけではないのに、英語学校に行かせていただき、英語を勉強しはじめてから50年になります。その間、トボトボとおぼつかない歩みではありましたが、なんとか今までその方向で努力してこられたことを何よりもありがたいことと存じます。特に、大きな組織と関わりなく、坐禅修行を続け、同行の人たちとの協力の中で翻訳の仕事をしてくることができたことを嬉しく思っております。

今年は、3冊の本が出版されました。6月に、内山老師が「生命の実物」の中で紹介されたカボチャの話をもとにした子供用の絵本Squabling SquashesがWisdom社から刊行されました。子供教室のような活動をしている禅センターでは子供たちに読んで聞かせてから、花壇や畑の仕事を一緒にしたという話も聞きました。アメリカ国内や国際間の様々な分断の現状の中で、みんな一つの生命を生きているのだということを子供たちに知ってもらいたい大人たちに喜ばれているとのことです。ある禅のグループでは、みんなでこの絵本を読んでから坐禅をしたという話も聞きました。

9月末には、宮川敬之さんに日本語に訳していただいた拙著Realizing Genjokoanの日本語訳が春秋社から出版されました。何年か前に三人の宗侶の方達と一緒に三心寺の眼蔵会においでいただいた時に、敬之さんから、翻訳したいということをお聞きしていたのですが、パンデミックの蟄居生活が功を奏したのか、予想外に早く出来上がって驚きました。いくつもの質問をいただいて、私の書き方の間違いやあやふやな点が出てきて慌てましたが、是正していただけて有り難かったです。20年以上前にロスアンゼルス禅宗寺に北アメリカ開教センター(現国際センター)の事務所があったころに禅宗寺の教室をお借りしてさせていただいた宗典講読での講義をもとに、トランスクライブしていただいた方、センター報に連載したおりに英語をエディットしていただいた方たち、その後、一冊の本にするために編集作業をしてくれた人、内容を点検してくれた人たち、その他多くの人々のご協力でできた本ですので、自分の著書というのも恥ずかしい感じがします。これまで、英語の本を作っても日本の方々に読んでいただけなくて寂しい思いをしてきましたが、今回、読んでいただいた人たちから感想を聞かしていただけるのを楽しみにしております。

10月には、Dogen Instituteから、Ryokan Interpreted が出ました。これも20年ほど前にバークレー禅センターで話した良寛さんの漢詩についての講話をもとに、ある程度書き足して一冊の本にしたものです。英語原稿のエディットをしていただいたミルォーキー禅センターの前住職の洞燃・O’Conner師は、この本に載せるエッセイを書くために、三心寺の副住職の法光と共に日本に行き、越後の良寛さんが生きた場所を訪問していただきました。法光はこの本に掲載された五合庵、その他多くの写真を撮影してくれました。洞燃さんのお弟子の洞文さんには表紙その他、装丁に使う絵を書いていただきました。Dogen InstituteのディレクターのDavidさんは本全体の編集、そして法光がブック・デザインを担当しました。完全に我々の手作りでできた本です。

Wisdom社から出版予定の「長円寺本随聞記」の英訳と「道元禅師和歌集」の英訳と解説とを一冊の本にした、Dogen’s Shobogenzo Zuimonki: the New Annotated Edition; also Included Dogen’s Waka Poetry with Commentary 、必要な編集作業は完了しました。来年の春には出版される予定です。最初は2月出版予定だったのですが、現在、紙の供給がパンデミックのために滞っているとのことで、遅れてしまいました。「随聞記」は三心寺の勉強会で2、3年程かけて勉強した時の私の翻訳がもとになっています。勉強会で初稿に基づいて説明をし、参加の人たちから英語の間違いを指摘してもらったり、より良い英語表現を教えてもらったりして作成した第2稿をもとに弟子の道樹・Laytonが出版社に送る最終原稿を作ってくれました。「道元禅師和歌集」の英訳と解説は、三心寺のニュース・レターに4年間連載したものを、二人の弟子にエディットしてもらいました。

このように、本の著者は私の名前になっていますが、これまで出した本と同様、多くの坐禅の同行の人々との共同作業でできたものです。私一人で作った本は一つもありません。

1922年にロスアンゼルスに北アメリカで最初の曹洞宗寺院である禅宗寺が創立されて100周年になります。2022年にその記念行事として禅宗寺において授戒会が行われることになり、2、3年前から準備が進んでいます。80周年記念の授戒会の時には、戒師を始め日本から多数の方々がお見えになったのですが、今回は北アメリカの国際布教師が主体になって行うとのことです。私は、説戒を担当するように秋葉総監老師から申しつかりました。その準備として、これまで三心寺の禅戒会で教授戒文をテキストとして講義してきたものを1冊の本になるようにまとめる作業を始めております。

パンデミックで何かと心細い一年でしたが、おかげで、これまで時間がなくて読めなかった本を読んだり、翻訳や執筆に専念することができました。

どうぞ良いお年をお迎えください。


2021年12月22日

奥村正博 九拝

 

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