三心通信 2023年月 最終回

 

4月の三心通信で、創立してすぐに植えた桜の木が数えるほどしか花をつけず、葉もまばらについているだけなので、20周年を前に枯れかけていると、写真付きでお伝えしましたが、その後、葉は例年とほぼ同じくらいに出揃いました。早まったかなと思っています。しかし、幹を見るといかにも痛々しいので、あとどれくらいもつのか心配です。何年か前に一度暖かくなった後で、ひどい寒波に襲われ、幹がかなり深く長く割れました。その部分が何かに感染したのではないかと思います。境内の小さな草原では、例年のようにさまざまな草花が競うように成長しています。夕暮れ時になると蛍が飛びかう季節になりました。



5月24日から29日までロスアンゼルスに行きました。瑩山禅師700回大遠忌予修法要と北アメリカ国際布教並びに両大本山北米別院禅宗寺創立100周年記念行事に参加するためです。日本の宗務庁、両本山の代表の方々をはじめ、多数の方々がおいでになりました。古くからの友人知人にお会いできました。中でも、半世紀以上も前の1968年に駒沢大学に入学した時に英語を教わった小笠原隆元先生が最も長くご縁のあった方でした。86歳というご高齢で、杖をついておられましたが、禅宗寺で働かれた開教師の人たちのお名前を刻んだ石頭の除幕式の法要の導師を勤められました。

 

ロスアンゼルスから帰ると、直ぐに6月の接心が始まりました。私はもう接心は坐われませんが、副住職の法光と今回の夏期安居の首座でオーストリアから来ている心光はブルーミントンに帰った翌日から5日間の接心で大変だったと思います。

 

17日、18日の週末には心光の首座法戦式がありました。曹洞宗国際センター所長の建仁・Godwin師と書記の西村全機師に御随喜いただきました。17日(土)の本則行茶には助化師のGodwin師に「従容録」第20則「地蔵親切」について話していただきました。これまでは法戦式の本則については、私が話してきたのですが、今回初めて女性の所長に来ていただくことになったので、本則の提唱をお願いしました。

 

首座の心光がヨーロッパから来ていることもあって、法戦式にはヨーロッパから正珠・Mahlerとそのお弟子さん、黙祥・Depreayと奥さんが随喜し、20周年の行事が終わるまで1週間以上滞在してくれました。また、いつも三心寺の建物の世話をしている発心さんは、坐禅堂の内装の仕事にかかりきりでした。これまで禅堂の天井は石膏ボードのままだったのですが、今回木板を張り付けてくれました。その他の改良もあって、全く違った雰囲気になっています。



次の週末、23日(金)、24日(土)、25日(日)には、三心寺創立20周年、私の退任と法光の就任の式がありました。摂心が終わってから、法戦式をはさんでほぼ3週間、法光や行事を計画し、準備し、実行した人々にとっては大変忙しい日々だったと思います。私は坐禅も作務も免除されていましたので、Buddhadharmaという仏教雑誌に「無情説法」についての記事を書くことができました。また、毎月連載している「道元漢詩」の文章も書けました。ただ、「菩薩戒の参究」の原稿書きに戻ることはできませんでした。

 

行事は23日午後5時からの歓迎レセプションから始まりました。懐かしい人々がアメリカ各地、南アメリカ、ヨーロッパ、日本から集まってくれて賑やかでした。そのあと、三心寺で2007年に受戒した著名なピアニストYael Weiss氏が32 Bright Cloudsと題したコンサートをしてくれました。Bright Cloudsというのは「教授戒文」の第九不瞋恚戒についての戒文にある「光明雲海」からとられたものです。

 

24日(金)には、午前中に三心寺の歴史と将来の展望とその課題について5人の人がそれぞれのテーマで発言し、パネルディスカッションが行われました。午後には、道元インスティテュートのディレクターであるデヴィッド・トンプソンの司会でこの記念行事のために作られたAdding Beauty to Brocade(錦上に花を添える)について3名が発言しました。この本は「正法眼蔵四摂法」についての私が以前曹洞宗国際センターの機関紙「法眼」に連載した註解を最初の部分に掲載し、四摂法の布施、愛語、利行、同事について三心ネットワークの出家者16名が寄稿したエッセイ集です。「錦上に花を添える」はこの巻についての永平寺五世、義雲禅師の著語です。

 

その日の午後4時半からは、私の退董式がありました。北アメリカ国際布教総監部から、秋葉玄吾総監老師、懐浄・マクマレン賛事、軽部真生師が臨席されました。秋葉老師には、直前に日本から帰られたばかりでお疲れのところ、この行持のためだけにブルーミントンにお越しいただいて、申し訳なく、ありがたく存じました。三心寺創立の際にお手伝いいただいた片桐大忍老師の法嗣の貞静・ミュニック師、南米コロンビアに大心寺を創立しこの2月に晋山式を行ったばかりの弟子伝照・キンテロにそれぞれ祝辞をのべていただきました。

 

25日(日)朝には、家内の優子がお袈裟について発表をおこないました。11時から法光の就任式があり、そのあとの昼食会で3日間にわたった行事は円成しました。

 

2003年に三心寺の活動を開始してから、日常の坐禅、内山老師が始められた坐禅だけに専注する5日間、あるいは3日間の摂心、道元禅師の著作をはじめとした仏法の参究を中心に地味に、ささやかに修行を続けてきました。70名ほどの人が受戒し、私から得度した人と、師僧替えした人をあわせて28名が私の弟子になり、そのうち13人が嗣法しました。嗣法予定のものがあと数名あります。それぞれ北アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパ、日本などの各地で活動を続けております。10冊以上の著作が出版され、そのうちの何冊かはイタリア語、フランス語、ドイツ語、日本語などに翻訳されました。大勢の人々に支えられながら、チビチビとしてきた活動が少しずつ実を結んだものです。これまで生きてこられたことに感謝せずにはおれません。

 

6月24日をもちまして、20年間続けてきた三心寺住職から退任させていただきました。私は、内山老師から習った坐禅道元禅師の仏法をなるべく何も足さず、何も引かずに伝えていくことを誓願としてきました。これからは、法光の指導で今までとは違った、アメリカ人のための三心寺として成長していくことを期待しております。

 

先月号にも書きましたが、この「三心通信」は三心寺日本事務局として創立のときからご支援いただいている鈴木龍太郎氏のおすすめで2006年からほぼ毎月書かせていただきました。三心寺は成長してもはや私の活動ではなくなりましたので、今月分をもって終わらせていただきます。これまでのご支援に感謝いたします。。

 

三心寺で得度した日本人4人の方々に、何らか別の方法で三心ZCからの日本語での発信を引き継いでいただくようにお願いしています。「三心禅コミュニティ通信」という名前で近いうちに始められるとのことです。

 

三心ネットワークの活動が世界各地で地道に続いていくように願っております。

 

 

2023年6月29日

 

奥村正博 九拝