三心通信 2019年12月

 

例年、クリスマスを挟んだ24日、25日、26日は休みにしております。今日はもはやクリスマス・イヴです。多くの人たちは家族に会いに旅行をしています。私たち家族にとっては、訪問者もなく、静かな休日です。この冬、2、3回雪が降りましたが、この数日は比較的暖かく、雪は日陰に少し残っているだけです。窓から見える空は青く澄んでいます。穏やかなクリスマスになりそうです。

 

11月30日から12月8日朝までの臘八接心は例年のように、10人ほどの人たちが参加しました。ドイツから、西海岸のベイ・エアリアやロスアンゼンルス、そしてシカゴ、アリゾナ、などから、1日14炷、坐禅だけの接心を坐るために仕事を休み飛行機に乗って、あるいは半日自動車を運転して来てくれる人たちには頭が下がります。この接心を続けている限り、三心寺は大きな禅センターになることはあり得ないと思います。しかし、誰も来なくなるということもないと思います。静かに坐禅だけ、つまり仏様と自分だけに向き合うことでのできる接心はあまり他所ではありませんので、いつでも少数の人たちは来てくれると思います。私としてはそれで十分です。もちろん、眼蔵会のように50人近くの人たちが来てくれれば、それに越したことはありませんが、おそらくそれは少なくとも当分の間はないでしょう。

 

先月の三心通信にも書きましたが、現在では副住職の法光が接心の指導を担当してくれています。私も坐りますが、指導者としてではなく、一参禅者としてです。いつものように、昼食後、YMCAに行って1時間ほど歩き、ストレッチをし、シャワーを浴びて2時頃にお寺に帰り、1時間ほど休息して禅堂に戻ります。ですので私は12炷しか坐れません。椅子に長時間坐っていて楽なのは膝だけです。上半身を尻と腰だけで支えなければならないので、足を組んで結跏あるいは半跏で坐っているよりも坐相のバランスを維持するのが難しく、腰が疲れます。長時間のフライトで、狭い座席に坐っていると下肢の血流が悪くなり、静脈に血栓ができて様々な問題が起きるエコノミークラス症候群というのがあるということですが、1日に14時間坐ると、インディアナポリスから、日本に飛行機でいくのと大体同じ時間坐っていることになります。7日間の接心では日本まで3回半往復するほどの時間になります。50分ごとに経行があり、上半身を真っ直ぐにしておくことが可能ですので、また、食事が機内食よりも随分ましなので、エコノミークラスの長時間のフライトほど苦痛ではありませんが、長時間座るのには、坐蒲の上で足を組んでいる方がずっと楽です。それでもとりあえず、7日の深夜12時まで坐ることができました。12月8日は私が得度して49回目の記念日でした。

 

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12月8日が日曜日だったので、成道会の法要は次の日曜日、15日になりました。昨年は道元禅師の成道会にちなむ漢詩について話しましたが、今年は再びパーリ語のニカーヤで釈尊が成道の前後で何が変わったかを話されているお経を取り上げました。サミュッタ・ニカーヤの2−57、英語訳ではPhases of the Clinging Aggregates, 増谷文雄さんの日本語訳では、「五取蘊の四転」と訳されています。釈尊は、「この生に取著する五つの要素の四つの変化の相を、既にあるがままに、十分に証知することをえた」だから「最高の正等覚を実現したと称するのである。」と言われています。4つの変化の相というのは、五蘊のそれぞれが何であるか、色の場合では、色とは何か、その生起、その滅尽、その滅尽に至る道を如実に知ることです。これは四聖諦の苦、苦の原因、苦の滅、苦の滅に至る道と同じ論理だと思います。釈尊の成道が五取蘊つまり私たちの身体と心の働きをそのままに見る、そして私たちの身体と心のそれら自身への取著から解脱することだということは、釈尊の悟りが現在の私たちとは無関係なものではないことが分かります。私たちも釈尊と同じ五蘊(身体と心)なのですから。

 

臘八接心が終わってから、来年の眼蔵会の準備のために「正法眼蔵無情説法」の翻訳をしました。5月の眼蔵会には「諸法実相」を参究する予定ですが、「諸法実相」は十年ほど前に一度眼蔵会でしたことがありますので、英語訳は既にあります。「無情説法」は8月のサンフランシスコ禅センターでの眼蔵会で参究する予定です。11月の眼蔵会では「仏経」の巻を読もうと考えております。これはまだ翻訳しておりませんので、これから訳さなければなりません。

 

「無情説法」英訳の第1稿ができてから、曹洞宗国際センターのニュースレター「法眼」に連載している「正法眼蔵」の解説の続きとして、「観音」の巻の解説の第1回を書いています。この連載では以前の眼蔵会の講義のトランスクリプションに加筆訂正しているのですが、ほとんど全面的に書き直さなければならず、思ったよりも時間がかかりました。その第1稿ができたもので、この三心通信を書いております。もう少し寝かしてから、再度点検して、英語を添削してくれる弟子の正龍・ブラッドレイに送ります。

 

また一年が過ぎてしまいました。お寺の運営や坐禅その他の活動のことは副住職の法光やその他の人たちが中心になってやってくれていますので、私は自分の坐禅と、講義の準備、翻訳や原稿書きが主な仕事になっています。ですので、反省するべきことも、自分の仕事が随分と遅くなっていることと、知識や理解が曖昧で、しょっちゅう調べ直さなければならないこと、相変わらず下手な英語しか使えないことくらいです。若い頃と違って、いくら努力してもこれらが改善される可能性はほとんどありませんので、あきらめて、受け入れる意外にしようがありません。

 

来年は2月末からほぼ1ヶ月、ヨーロッパの4カ国を訪問し、5つのセンターで話をしたり、接心をしたりする予定です。体力が続くように願っております。

 

 

2019年12月24日

 

奥村正博 九拝