三心通信 2022年8月

 

今月中旬までは、30度を超える暑い日が続いていましたが、下旬に入って朝夕はかなり涼しくなりました。午後3時過ぎにYMCAまで歩く時も、立っているだけで汗が出てくるようなことはなくなりました。曇って風のある日には涼しさを感じるようにもなりました。ついこの間まで、太陽に向かって咲き誇っていた貸し農園のひまわりたちも、大きなものはすでに黄色い花弁の部分はなくなり、真ん中の黒くなった種の部分が重そうに頭を下げて、しょんぼりとしてしまったように見えます。何年か前までは老醜だとしか見えませんでした。しかしひまわりさんたちご本人にすれば、しょんぼり頭を下げているというよりも、稔るほどに頭が低くなる稲のように、今年の責任を果たしたという充実感をあじわっているのでしょうね。人間も晩年はそうありたいものだと思います。小さめのひまわりたちはまだ元気に咲いています。

 

境内の小さい草原の植物たちも、夏の花はほとんど終わってしまいました。秋に花をつけるgolden rod (日本名は背高泡立草)が背丈を伸ばし、snakeroot(丸葉藤袴)も、もう直ぐ花をつけそうです。日が暮れてから外に出ると、蝉の声と、秋の虫の音が混じり合って聞こえます。ごくわずかですが、まだ蛍が飛び交っているのも見ることができます。季節が動いているのを感じます。

 

6月の三心通信でお知らせした苔庭の石庭の部分、砂利を敷いた後に、これまでのものと比較するとかなり大きな庭石が入りました。野外に長く放置されていたものらしくすでに苔むしている石もあります。ショベル・カーをつかって、発心さんが一人で動かし、設置してくれたものです。写真にあるように竹垣を修理しているところです。先日、家族なのか、5頭の鹿が一緒に草を食べに来ました。めずらしく角をはやした牡の鹿も一緒でした。



今月4日から7日まで、ノースカロライナ州の Great Tree Zen Women’s temple の4日間のリトリートのためにこの数年Dogen Instituteのウエブ・サイトのために連載している「句中玄」に収められている道元禅師の漢詩の解説と感想をもとにして、講義をしました。あちらに行くように依頼されていたのですが、また、カリフォルニアからブルーミングトンに移ってから数年間、毎年walking retreatに行っていた場所だったので、知り合いもいて、私も行ければ良いなと思っていたのですが、まだ飛行機の旅行が完全に安心だとは言えないので、Zoomを通して、三心寺からリモートでの講義になりました。今回は「句中玄」の順序では、第10首から第17首までの8首をテキストにしました。最初の4首は「雪」と題したもの、そのあとは「禅人に与う」と題したものでした。

 

第13首

三界十方何一色       (三界十方何ぞ一色なる)

誰論天上及人間       (誰か論ぜん天上及び人間)

莫傳寒苦鳥言語       (傳うることなかれ寒苦鳥の言語)

無熱惱池在雪山       (無熱惱池は雪山に在り)

 

この詩は、見渡す限り雪に覆われた永平寺の冬の景色のなかで、それぞれの生きる態度によって苦しみとも、よろこびともなる修行生活のなかでの、仏教的表現では、輪廻即涅槃、娑婆即寂光土、十界互具などを表現されたものですが、「寒苦鳥」という言葉が、仏典には見つからないのが興味深いと思いました。たしかに、大正新脩大蔵経のサイトで検索してみても見つかりません。「平家物語」にもでるそうです。日本で作られたものなのでしょうか? 鎌倉時代にはよく使われた表現なのでしょうか?

 

3日にベルギー人の黙祥さんが伝法の7日間の加行をするために三心寺に来ました。もともとヨーロッパの禅センターで出家得度をしたのですが、師匠の人が日本に帰国されて、首座法戦式も嗣法もできなくなって、転師をして私の弟子になりました。三心寺の夏期安居で首座法戦式をし、岡山県の洞松寺に安居させていただきました。一昨年に嗣法する予定だったのですが、パンデミックのためアメリカ入国ができず、2年間延期していたものです。今回は入国できたのですが、空港か飛行機の中でコロナに感染してしまいました。こちらに到着した翌日には私の「句中玄」の講義も聞いていたのですが、2日目から具合が悪くなりました。最初はみんな時差ぼけと旅行の疲れが出たのだろうと思っていましたが、テストをするとコロナに感染していることがわかりました。それで、伝法の式を延期して、1週間、自分の部屋で自己隔離をしてもらいました。同じアパートにいる人たちも、禅堂に一緒にいた私たちも、なるべく他の人たちとの接触を控え、5日経ってからテストを受けて陰性であることを確認しました。三心寺の禅堂も、数日間閉鎖しました。1週間の自己隔離のあと、黙祥さんも陰性になり、12日からようやく7日間の加行をはじめ、18日にようやく完了しました。幸に軽症ですみましたが、まだまだ、国際旅行は安全だとは言えないようです。

 

9月に同じくノースカロライナ州のChapel Hill Zen Center主催の眼蔵会があります。説訳の「見仏」の巻が講本です。1243年7月に越前に移転されてから、「三界唯心」から書き始めて、半年のうちに二十巻ほどの「正法眼蔵」を書いておられますが、「見仏」の奥書では11月19日付になっています。その年の最後に禅師峰で書かれたものです。Chapel Hill Zen Centerはサンフランシスコ・禅センターとつながりのあるサンガですが、20年以上前に訪問して「眼蔵坐禅箴」の磨塼の部分の講義をしました。その時の経験があって、「正法眼蔵」をある程度集中して講義することも不可能ではないと感じ、2002年にサンフランシスコ・禅センターにおいて、宗務庁の宗典翻訳事業の存在を知ってもらおうと、最初の眼蔵会を行ったのでした。その後も、Chapel Hillでは数回眼蔵会を行なっています。三心寺以外での眼蔵会の最後がこのセンターになったのにも何か因縁を感じています。

 

宗務庁の翻訳事業の正法眼蔵の解説とグロサリーが入る第八巻の日本語の部分の校正を曹洞宗国際センターから頼まれて、時間のある範囲ですすめております。400頁もあるので、2つの眼蔵会の準備に追われている今は、無理だと思ったのですが、英語や中国語の部分はしなくても良いということなので、できるだけ努力しております。

 

そんなこんなで、時間がなく、「菩薩戒の参究」の十重禁戒の部分の原稿作成は全く進んでおりません。

 

来年の年間スケジュールを考えなければならない時期にきました。特に、例年通りの接心と、首座法戦式に加えて、三心寺創立20周年と、私の退任および法光の就任の式、などがあって、忙しい夏期安居になりそうです。

 

 

2022年8月25日

 

 

奥村正博 九拝