三心通信 2018年8月

 

夏季安居が円成して間もなく、7月16日にブルーミントンを出発して日本に行きました。私の日本語の本「今を生きるための 般若心経の話」が港の人という出版社から6月に出版されましたので、その機会に日本でいくらか話をさせていただくためでした。

 

7月20日から22日までは名古屋にある愛知専門尼僧堂の緑陰禅の集いに講師として参加させていただきました。3日間で4回の講義がありました。内山老師が遷化なさってから今年で20年になりますので、私が老師から教えていただいたことの中核である「一坐二行三心」の話をしました。二行とは誓願行と懺悔行です。三心は喜心、老心、大心です。これは内山老師が引退される時、安泰寺での最後の提唱としてはなされた、「安泰寺に遺す言葉」の中で語られたものですが、老師の著作の多くには坐禅はそのまま誓願の行であり、また懺悔の行でもあること、また三心は坐禅が我々の日常生活の中で働く時の態度であるということが述べられておりました。私にとっては、老師が引退されてアメリカに行き、師匠なしで修行して行くようになってからも忘れてはならない核心でありました。今に至るまで老師の遺言だと考えております。公開の場で日本語でまとまった話をするのはほとんど25年ぶりぐらいでしたので、錆びついた日本語が通用するかどうか心配しておりましたが、なんとかなったのではないかと思います。

 

26日には宗務庁がある東京グランドホテルで行われた禅と今の夏季大学の講座で話をする機会を与えていただきました。「菩薩の誓願」について話しました。峯岸正典さん、福島伸悦さん、石井清純さんをはじめ昔からの知り合いの方々にお会いできて楽しい時をすごさせていただきました。

 

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 27日には新宿の朝日カルチャー・センターで藤田一照さんと一緒に坐禅の実習と「現成公案」の講義、対談をさせていただきました。両講座とも40名ほどの人々が参加されました。みなさん熱心なのに驚きました。

 

28日に鎌倉に移動し、29日には藤田一照さんの本拠である葉山の茅山荘をたずねて一照さんと2時間の対談をしました。テーマは「只管打坐の醍醐味と落とし穴」ということでしたが、テーマどおりの内容になったかどうか自信がありません。焼津の林叟院の鈴木包一老師がきておられたので驚きました。

 

30日には鎌倉の由比ヶ浜の公民館のようなところで山下良道さんとの対談がありました。これは私の本を出版していただいた港の人の主催の会でした。良道さんは、安泰寺で得度し、私が1993年にアメリカに来るために園部の昌林寺を出ることになった時、その後に入っていただいた人です。その後、ミャンマーに行って上座部の比丘として修行し、現在では鎌倉に一法庵を創立して布教されています。対談のテーマは「只管打坐とマインドフルネス」ということでしたが、私にはマインドフルネスについての知識がほとんどありませんので、話が噛み合わなかったのでないかと思います。

 

以上のどの会場でも「般若心経のはなし」を販売させていただきました。日本ではほとんど知られていない私の、日本の書店では何十冊もあるであろうありふれた「般若心経」の話の本をせっかくいい本にしていただいたのに、出版社の方に赤字が出たのでは申し訳ないと思い、私のできるだけの努力はさせていただきました。多くの旧知の方々とお会いすることができ、また新しくお目にかかった人々との出会いもありがたいものでした。

 

それにしても7月の日本の暑さにたまげました。今年の暑さは異常だったそうですが、日中はなるべく外を歩くのを避けておりました。早朝や日が落ちてから散歩するようにしましたが、それでも10分ほども歩くだけで汗で衣服が雨の中を歩いたようにビショ濡れになりました。

 

それでも、鎌倉で、大学生の頃以来50年ぶりくらいに、鎌倉駅から鶴岡八幡宮に行き、建長寺円覚寺を経て、北鎌倉の駅まで歩いたときには、あの頃どんなことを考え、何を追求しようとしていたのか、様々なことが思い出されました。70歳になってまた同じ道を歩けるとは思っていませんでした。

全ての行事が終わり8月2日にブルーミントンに帰り着きました。それから3週間近くもたちますが、まだ夜の眠りが浅く、夜中に何度も目を覚まし、そのせいで一日中眠いという状態が続いています。それでも、三心寺のニュース・レターに連載した「道元禅師和歌集」の翻訳と短い解説の原稿を弟子の浄瑩さんがエディットしてくれたものを見直し、序文を書き、参考文献のリストを作りました。原稿で100ページほど、今までの本に比べると短いのですが、出版社から刊行できるように願っております。

 

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現在、三心寺の地下の禅堂に地下のコンクリートの壁を切り抜いて避難出口を作る工事が行われています。壁のコンクリートを切る仕事以外は、ワークリーダー(直歳)の発心さんが引き受けてくれています。その工事のためにお寺の坐禅堂が8月いっぱい使えないので、ダウンタウンオフィスビルの一部屋を一ヶ月間だけ借りて臨時の坐禅堂として使っています。時差ボケでよく眠れないため毎日朝5時から坐りにダウンタウンまで行くのは辛いのですが、目が覚めた日には行くようにしています。

 

日本ではまだまだ残暑厳しい日々が続くことでしょう。どうぞご自愛ください。ブルーミントンでは早朝は15℃程度、最高気温も25℃くらいまで涼しくなりました。

 

 

2018年8月23日

 

 

 

奥村正博 九拝