三心通信 2020年2月

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Living By Vow(フランス版)

昨年に続いてこの冬も、暖かな冬でした。2、3度雪雨が降りましたが、すぐに消えてしまう程度で、2月中もむしろ雨の日が多くありました。

 
2月6日にブルーミントンを出発し、サンフランシスコに行きました。サンフランシスコ大学の哲学の先生がオーガナイズされた、Coastal Zen:Zen and Placeというタイトルのコンファレンスに出席するためです。インディアナポリスからジョージア州アトランタに飛び、そこでサンフランシスコ行きのフライトに乗り換える予定だったのですが、フロリダの海岸からアトランタのあたりまで、おおきな雨嵐があり、私のフライトは3時間ほど遅れました。アトランタについたものの、乗り換えのフライトに間に合わず、5時間ほども待って、次のフライトに乗りました。午後1時過ぎにサンフランシスコに着く予定が、9時半頃になってしまいました。
 
7日、宿泊させていただいたお宅を昼ごろに出発して、サンフランシスコのゴールデンゲート・パークのすぐ北側にあるサンフランシスコ大学の宿泊施設につきました。イエズス会によって創設されたカトリックの大学で、壮大な礼拝堂があります。コンファレンスの会場はその礼拝堂のすぐそばにある建物でした。午後4時45分から6時まで私のA Person in the Mountainsと題したkeynote presentation(基調講演)がありました。主催者は40ないし50人くらいの来場者を見込んでいたのですがサンフランシスコ禅センターやその他の禅センターの人たちが意外に多く来られて、100名ほどの人が私の話を聞いてくれました。私は哲学の先生たちの学会だと聞いていたので、学者の人たちに聞いてもらえるような話ができるか心配していたのですが、大多数が禅センターの人たちでしたのでいつもの調子で話すことができました。

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A Person in the Mountainsというのは、道元禅師が「山水経」などで使われた「山中人」という表現の英語訳です。「永平広録」第9巻の「永平頌古」第25則に宏智禅師の偈頌を本則として、道元禅師ご自身の頌古を作っておられます。宏智禅師の偈頌は明らかに蘇東坡の「盧山の詩」を下敷きにしたものです。

横看成嶺側成峰 (横より看れば 嶺を成し、側よりは 峰を成す)
遠近高低各不同 (遠近、高低、各の同じからず )
不識廬山真面目 (廬山の真面目を識らざるは )
只縁身在此山中(只だ身此の山中に在るに縁る)
 
宏智禅師の偈:
来来去去山中人  (来来去去山中の人)
識得青山便是身  (識得す青山は便ち是れ身)
青山是身身是我  (青山は是れ身、身は是れ我 )
更於何処著根塵(更に於何処にか根塵を著けん)
 
道元禅師の偈:
山中人可愛山人  (山中人は山を愛する人なるべし)
去去来来山是身 (去去来来、山は是れ身)
山是身兮身未我   (山は是れ身、身は我れならず )
更尋何処一根塵 (更に何処にか一根塵を尋ねん)
 
これら3つの詩を比較しながら、道元禅師の自己と自己が生きる場所としての万法との縁起、空のあり方について話しました。面白いことは、「山水経」をかかれた1240年に撰述された「礼拝得髄」、「渓声山色」、「諸悪莫作」、「有時」などの巻に「山中人」という表現が使われていることです。この年以前に書かれた巻にも、以後に書かれた巻にも使われていないと思います。このことから「永平広録」所収の「永平頌古」もおそらくこの年あたりに作られたものと推測しております。
 
2日目、3目は哲学者の方達の発表でした。このグループの学者の方達は禅に興味を持っているだけではなくて、自分でも坐禅修行をし、何人かは曹洞宗の僧籍も持っている人たちです。発表を聞いているとゲリー・シュナイダーのディープ・エコロジーや人間と自然や環境についての問題に興味を持っている人たちのようでした。ただわたしには、学者の人たちの使う英語はよく聞き取れず、あまり理解もできませんでした。
 
先週末、21日から23日まで、三心寺でIntroduction to Dogen(道元入門)をテーマにしたリトリートがありました。私は25日にヨーロッパに出発する予定で、ヨーロッパでの10回の講義や講演の準備もしなければならなかったので、坐禅や作務は免除してもらい午前9時から11時まで、講義だけを担当しました。道元禅師の戒、定、慧についての著述の中で述べられている、基本的なことを話しました。眼蔵会の場合は、特定の巻について話しますので、このように幅広く、基礎的な話はできません。道元禅師にまだあまり馴染みがない人たちには興味を持って聞いてもらえたと思います。
 
昨年の2月にアイオワ州の竜門寺で首座法戦式をした、ドイツ人女性の鏡空が、今月法光から嗣法を受けました。10日ほど三心寺に滞在して、8日間の伝法の加行に加えて、日曜日には坐禅会の法話をし、週末のリトリートにも参加するなど、大変な10日間だったと思います。
 
25日に三心寺を出発し、26日午後にイタリアのローマに着きました。最初に予約していたインディアナからニューヨークに行き、ローマ行きに乗り換えるフライトが直前にキャンセルされて、少々慌てましたが、インディアナポリスからパリへの直行便に乗り、パリで乗り換えてローマに着くことができました。今回はビジネスクラスに乗ることができ、横になって眠ることができましたので、疲れ方が違いました。
 
イタリアでは、ヨーロッパの中で最もコロナウイルスに感染している人が多いということで、今回の訪問を中止するかどうか判断しなければなりませんでした。感染者が出たのは主に北部なので、ローマの人達はそれほど深刻には考えてないようです。少し北にあるフローレンスでは大きな集会が中止になったりしているようで、オーストリアから私の話を聞きに来る予定をしていた人たちが、取り消したとのことです。イタリアの後に行く、ギリシアフランス、イギリスは問題ないようです。

 

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ローマ講演のチラシ


4カ国の5つの禅センターを訪問して、合計10回の広義や講演をする予定です。3月23日に三心時に帰ります。無事にこの旅が終わるように願っております。
 
 
 
2月27日
 

奥村正博 九拝