三心通信 2017年8月、9月

三心通信 2017年8月、9月



7月10日に夏季安居が円成したあと、例年通り、アイオワ州龍門寺の首座法戦式に助化師として随喜させていただきました。法戦式の本則は三心寺の今年の法戦式と同じく「南泉斬猫」でした。龍門寺の堂頭の彰顕・ワインコフ師のお弟子さんは全員法戦式を済まされたということですので、等分の間、龍門寺に助化師として行かせていただくことはないようです。
 
8月10日から28日までカリフォルニア州に滞在致しました。主な行事は11日から18日まで7日間のサンフランシスコ禅センターでの眼蔵会でした。今回は拙訳の「正法眼蔵柏樹子」を講本と致しました。比較的短い巻きですので7日間、13回の1時間半の講義には足りないかと、念のために、時間が余れば道元禅師の著作のなかで、趙州禅師について書かれているところを抜粋して、第2の講本といたしました。ところが予想に反して、「柏樹子」の巻だけで13回の講義が終わってしまいました。参加者は80人ほどありました。禅センターでの宿泊可能な人数を上まわっていましたので、通いで講義にだけ参加する人も何人もありました。
私の拙い英語での「眼蔵」の講義に、禅センターに安居している人のみならず、各地から参加していただいた人々に感謝しております。道元禅師の「正法眼蔵」、「永平広録」その他の著作における教えを理解したうえで、坐禅修行をしていただきたいと願う私にとってはたいへんに有難いことです。私の長年の努力にとって、何よりの励ましであります。

眼蔵会のあとは、スタンフォード大学の近くの知人宅に泊めていただき、カーメルにあるモントレイ・禅センター及び、サンタ・クルーズ禅センターを訪問して道元禅師の和歌について話しました。そのあと、グリーン・ガルチ禅センターに週末滞在させていただき、土曜日に1日接心の参加者の人たちに講義をさせていただきました。

8月28日にブルーミングトンに帰ると間も無く9月の接心がありました。そのあと、日本から来られている高橋あいさんの出家得度式が17日の日曜日に行われました。今年の3月にニューヨークに長年住まいし、アメリカの市民権も取得している小山一山さんの出家得度式をしましたので、日本人として三心寺で得度したのは二人目です。法名は慈正です。アメリカで得度して日本で僧侶として修行して行くのはなにかと不便なこともあると思いますが、旧来の檀家制度に基づいた寺院体制にとらわれない仏弟子としての修行の生活を創造してくれるように願っております。
 

そのあと、21日から25日まで、曹洞宗国際センターの行事の参禅指導として、アーカンソー州の北部、ミズーリ州との州境の近くの山のなかにある行仏寺を訪問いたしました。私の弟子の一人の正龍が6年まえにはじめた道場です。お寺とは名ばかりで、山小屋のような小さな建物を禅堂兼台所兼食堂とし、参禅の人たちはトレーラー・ハウスに住んでいる全く浮世離れした場所です。水道も井戸もなく、雨水をためてフィルターで濾過して地下の貯水槽にためたものを使っています。現在は正龍と三十歳のカナダ人の参禅者と二人だけが住んでいます。私が来るというので、フロリダからもう一人の私と同年代の人が来ていました。1975年から81年まで、私が住んだパイオニア・バレー禅堂の初期の頃の屯田兵のような生活を思い出しました。

そういう状態ですので、お寺で話をするという訳にもいかず、近くのキングストンという町の図書館を会場にかりて、一般の人を対象に公開の法話をいたしました。私としては、正龍が人知れず修行していることを少しでもこの地域の人々に知ってもらいたいと願っておりました。
キングストンは人口260人の本当に小さな町というよりも村です。それに謂わゆるバイブルベルトの一部ですので、図書館で仏教の話をすると言っても誰も来てくれないのではないかと思っておりました。ところが案に相違して、30人ほどの参加者があり、小さな図書館の部屋はほぼ満員になりました。中には結構遠くの町から来てくれた人たちもありました。

ブルーミングトンに帰って来るとすでに9月も末になり、お寺の境内には落ち葉が積もり始めております。これから11月まで、いくら落ち葉掃きをしてもすぐに元どおりになります。

10月は、初旬に例年通りピッツバーグのスティルポイントの週末接心があります。そのあと、11月はじめの眼蔵会にむけて準備をしなければなりません。「正法眼蔵葛藤」の拙訳を講本にいたします。この春に引き続いてチベッタン・モンゴリアン・ブディスト・カルチャー・センターの施設をお借りしての5日間の眼蔵会です。

数日前から、右目の端に糸くずのようなものが飛んでいるのが見えるようになりました。家内に話すと、齢のせいで起こる飛蚊症というのだそうです。そんな名前すらも知りませんでした。
七十歳寸前になるまで、目医者にも歯医者にも数えるほどしか行ったことのないのは、両親に感謝しなければならないことなのでしょう。
2017年9月27日
 奥村正博 九拝